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前田庠主のことば(平成21年11月23日)

印刷用ページを表示する掲載日:2009年11月23日更新

 去る8月にスリランカを旅行し、コロンボから車で、世界遺産の一つアヌラーダプラに向かう途中、旅行案内書にも出ていないクルネガラという、名もない田舎町で、思いがけず、生涯忘れがたい感動を経験いたしました。

 そこでは、目下巨大な岩山をくり抜いて、高さ21メートルもの大きな仏像を建造中でした。2001年に、バーミヤンの仏像が破壊されたニュースを聞いたスリランカの人々の中に、イスラーム教のモスクを破壊しようという動きが起こったそうです。そのとき、このクルネガラの坊さんが、村人達に、そんなことをしないで、バーミヤンの仏像の代わりに、この大きな岩山に仏像を造ろうではないかと提案されたそうです。それを聞いた子供たちが、さっそく自分たちのお金を集めて、これで造って下さいと坊さんに頼んだところから、建造に着手されたそうです。「さすがに仏教国スリランカ!」と、感動をおぼえました。私はその時、

 実にこの世において怨みに報いるに怨みを以てしたならば、
 ついに怨みの止むことがない。怨みを捨ててこそ止む。
 これは永遠の真理である。(五)

という仏典『ダンマパダ』(『法句経』)の詩句を思い起こしました。

 昭和26年9月4日サンフランシスコで開かれた対日講和会議で、スリランカ(当時のセイロン)のジャヤワルデネ初代大統領は、この『ダンマパダ』の詩句を引用して賠償請求権を放棄することを宣言されました。さらに「アジアの将来にとって、完全に独立した自由な日本が必要である」と強調して一部の国々の主張した日本分割案に真向から反対して、これを退けられたのでした。

 周知のように、怨みに報いるに怨みをもってする紛争や戦争やテロは、少しも減少することなく、世界のあちこちで起こっています。クルネガラの坊さんは、この悪の循環を断ち切るために、おそらく前引の『ダンマパダ』の言葉を根拠にして説得されたのではないかと思います。

 ニューヨークの同時多発テロ事件後、米政府によるアフガニスタン攻撃が開始され、報復を肯定する世論が吹き荒れる中で、翌年の2月、テロで肉親らを失った遺族たちが、反戦を訴えるNGO「ピースフル・トゥモローズ」を結成。アメリカ全土を回って平和的解決を訴えるとともに、米軍の攻撃によって傷ついたアフガニスタンの犠牲者家族との交流も始めたということです。人類が「永遠の真理」に目覚める日が一日も早く来ることを切望しています。

平成21年11月23日
前田專學