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庠主挨拶

五味文彦庠主の写真
 
 
 
 
 
 
 
 
  第三代史跡足利學校庠主
  五味  文彦(ごみ ふみひこ)
 
プロフィール
東京大学大学院人文科学研究科
修士課程修了
東京大学名誉教授、
放送大学名誉教授、
(公財)横浜市ふるさと歴史財団理事長
専門:日本中世史
主な著書:『院政期社会の研究』(山川出版社)、『書物の中世史』(みすず書房)、『中世のことばと絵』(中公新書)、『躍動する中世』(小学館)、『日本の中世を歩く‐遺跡を訪ね、資料を読む』(岩波新書)、『もう一度読む山川日本史』(山川出版社,共編)など。

 

  中村元先生・前田專學先生のあとをうけて、庠主に就任することになりました。両先生は仏教学の学者ですが、私は歴史学者ですので、その点で何かと、これまでとは多くの違いが生まれることでしょうから、皆様のご指導、ご鞭撻をお願いします。

 

  私が足利学校に初めて来たのは二十数年前、学生を引率して鑁阿寺・足利学校、そして世良田の長楽寺などを回った両毛線での見学旅行でした。

 

  その後、本格的に関わるようになったのは、世界文化遺産登録に関わってからで、以後、樺崎寺の発掘や講演にと、何度か来ています。最初に来た時はまだ学校は整備中で、方丈が復原されたばかりでしたが、その後に庭や裏門、孔子廟の修築などは見違えるほどになっています。

 

  足利学校の起源については諸説ありますが、関東管領の上杉憲実が1441年(永享4)に蔵書を寄せたのを起源と考えています。初代の庠主に建長寺の僧快元を起用しましたが、その段階ではまだ学校の体裁は整ってはいなかったでしょう。

 

  憲実は1446年(文安3)に足利学校の規則三か条を定めましたが、これが学校としての出発点と考えています。その際、学ぶのは儒学であり、仏教の談義はしないこと、入学者は禅衣を着用し、学問に専念することなどが定められました。

 

  学問の基本は儒学にあり、学徒が禅僧の服を着たのは、武力集団として見られないように配慮されたのです。憲実は武士にはもっと学問を学ばねば、戦乱の世は静まらないと考えたのです。

 

  そのことから学問に志す人々が全国から集まってきました。キリスト教の宣教師フランシスコ・ザビエルは「日本で最も有名で、最も大きい」と書簡で記しており、ルイスフロイスは『日本史』で「全日本でただ一つの大学であり、公開の学校である」と記しているように大きく発展しました。

 

  それは関東に始まった争乱が、応仁の乱を経て戦国の戦乱へて広がったことに応じ、平和な環境を求め、学問によって戦乱を克服しようと考える人々が集まったからでした。遠くは琉球からも来ています。七代庠主、九華の時には学生数が三千人と記録されています。

 

  そのため近隣の戦国大名の甲斐の武田氏や相模の北条氏も保護しました。何度か火災に見舞われましたが、1553年(天文22)には、学徒が諸所に寄付を募り再建されています。

 

  こうして見ると足利学校は日本学校の原点、大学の原点と言えるでしょう。というのもこの足利学校にならって、江戸時代になると、日本各地に藩校や郷校が生まれたからです。平和な時代になったので、禅衣を着ませんが、儒学が学問として教えられました。九州の日田の咸宜園では儒学を教え、公開学校の性格を継承しています。

 

  平和をもたらす原動力となった足利学校も、江戸時代になって各地に生まれた藩校に学問教育の機能を譲り渡すようになり、文庫としての役割が中心となりました。明治時代になると学校教育の普及で、足利町民の学校に転身し、庠主が置かれなくなりました。

 

戦後になって、小学校の移転とともに、改めて教育の意味や生涯学習、史跡としての意義などもろもろの意味合いから、足利学校を見直す動きがはじまって、庠主が置かれ、初代の庠主に中村元先生が就任されました。

 

  人々の集まる学校がいかに意義のあるものかは、現今のコロナ禍にあって痛切に感じられるところで、足利学校の存在意義はまことに大きい、と言わざるをえません。

 

  私は復活第三代ということになるのですが、果たして中村・前田両先生のように務まるかはわかりませんが、足利学校の存在意義を広く伝え、足利市民をはじめ全国の人々の学習への情熱に応じるべく、つとめたいと思います。

 

2021年1月13日
庠主 五味文彦


掲載日 令和5年2月1日
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住所:
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FAX:
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